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1-20 美由紀と朱莉と修也 2

last update Huling Na-update: 2025-06-10 23:25:30

「航君……」

 美由紀は映画館の近くにあるオープンカフェにぼんやり座っていた。テーブルの上には手つかずのコーヒーが置かれている。

航からは一度だけ着信があったが、とても出る気にはなれなかったし、掛け直す気にもなれなかった。

美由紀は映画館を出入りする人達に目を向けた。

友達連れやファミリー連れもあったが、一番多く目立ったのはやはりカップル同士だった。みんな幸せそうに寄り添って映画館の中に吸い込まれてゆく。

(私だって……映画を観終わるまでは……とても幸せな気持ちだったのに……)

その時、美由紀は偶然見た。

映画館の中から出てゆく美男美女。カップル同士にしては少し距離があるように見えるその2人……男性の方を見てアッと思った。

その男性は鳴海グループの副社長で、先程航が抱きしめていた女性と一緒にいた男性だった。

「……ッ!」

気が付けば美由紀は立ち上がり、2人の後を追いかけ、声をかけた。

「あ! あの! すみませんっ!」

「「え?」」

2人は同時に振り向いた。男性の方はやはり鳴海グループの現副社長である。そして女性の方は……。

(誰……? すごく綺麗な人……でも何処かで会ったことがあるような……?)

美由紀は必死で記憶の糸を手繰り寄せた。すると修也が朱莉に尋ねた。

「朱莉さん、知り合い?」

「いいえ。知らない方です。あ、あの……どちら様でしょう? 何か御用でしょうか?」

朱莉は首を傾げて美由紀を見つめる。

「え……? 朱莉……?」

美由紀はその名前に聞き覚えがあった――

****

 それは2人が交際して初めて関係を持った夜のことだった。

美由紀は幸せな気持ちで隣で寝息を立てて眠っている航の寝顔を見つめていた。

(フフ……私、ついに航くんと本当の恋人同士になれたんだ……)

美由紀は眠っている航にすり寄ると、寝ぼけているのか航は美由紀を抱き寄せてきた。

そのとき航は呟いたのだ。

「朱莉……」

と――

あの時、美由紀は確かにショックを受けた。どうせ過去の話。今、航の彼女は自分なのだからと無理に気持ちを納得させた。

けれど度々航は寝言で朱莉の名前を呟き……そのたびに美由紀は寂しい思いをしてきた。

(この人なの? 航君が寝言で呟いていたのは……)

美由紀は足を震わせながら朱莉をじっと見つめる。

 一方の修也と朱莉は困り果てていた。呼び止められて振り向いたものの、全く見覚えがない
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